第一首 こころよい仕事
こころよく 我にはたらく仕事あれ それを仕遂げて死なむと思ふ
ふるさとの訛なつかし 停車場の人ごみの中に そを聴きにゆく
<一握の砂 より>
第二首 魔窟の女
わが抱く思想はすべて 金なきに因するごとし 秋の風吹く
<一握の砂 より>
第三首 さりげない言葉
さりげなく言ひし言葉は さりげなく君も聴きつらむ それだけのこと
<一握の砂 より>
第四首 高塔奇譚
浅草の凌雲閣のいただきに 腕組みし日の 長き日記かな
<一握の砂 より>
第五首 にくいあん畜生
わがために なやめる魂をしづめよと 讃美歌うたふ人ありしかな
あたらしき洋書の紙の 香をかぎて 一途に金を欲しと思ひしが
大いなる彼の身体が 憎かりき その前にゆきて物を言ふ時
ふるさとを出で来し子等の 相会ひて よろこぶにまさるかなしみはなし
はたらけど はたらけど猶わが生活楽にならざり ぢっと手を見る
<一握の砂 より>
第六首 忍冬
何か、かう、書いてみたくなりて、
ペンを取りぬ――
花活の花あたらしき朝。
<悲しき玩具 より>
第七首 紳士盗賊
いつしかに 情をいつはること知りぬ 髭を立てしもその頃なりけむ
<一握の砂 より>
第八首 若きおとこ
よく笑ふ若き男の 死にたらば すこしはこの世さびしくもなれ
愁ひある少年の眼に羨みき 小鳥の飛ぶを 飛びてうたふを
<一握の砂 より>
第九首 仕遂げしこと
第十首 幾山河
幾山河 越えさり行かば 寂しさの 終てなむ国ぞ 今日も旅ゆく
<若山牧水 海の声 より>
第十一首 逢魔が刻
興来れば 友なみだ垂れ手を揮りて 酔漢のごとくなりて語りき
<一握の砂 より>
第十二首 蒼空
不来方のお城の草に寝ころびて 空に吸はれし 十五の心
<一握の砂 より>
見よ、今日も、かの蒼空に
飛行機の高く飛べるを。
給仕づとめの少年が
たまに非番の日曜日、
肺病やみの母親とたった二人の家にゐて、
ひとりせっせとリイダアの独学をする眼の疲れ……
見よ、今日も、かの蒼空に
飛行機の高く飛べるを。
<呼子と口笛(飛行機)より>
青空文庫 石川啄木 一握の砂(明治43年)
石川啄木 悲しき玩具(明治45年)
石川啄木 呼子と口笛(大正2年)
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